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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)259号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋隆二の上告趣意について。

本件杉立木十一本については、判示仮処分命令にもとずき、執行吏の占有に移す旨判示のごとき記載内容の公示札が右立木所在の神社境内に掲示せられていたにかかわらず、被告人は、右事実を知悉しながら右公示にかかる仮処分の趣旨に違反して右立木を伐採搬出したものであることは原判決の確定するところである。すなわち、原判決の確定するところによれば被告人は、右公示札の趣旨を知悉し、本件杉立木十一本が現実に執行吏の占有中であることを知りながら、これを伐採搬出したというのであるから右の事実にもとずき原判決が、被告人において、本件差押標示を無効ならしめる意思及び窃盗の意思を有した旨判示したのは正当である。

ただ、被告人は右杉立木十一本は警察より仮還付せられたものと誤信し、仮還付のあった以上これを伐採してもよいとの意思表示が警察からなされたものと思い、これを伐採したものであることは、また、原判決の確定するところであるけれども、既に前段判示の事実が確定せられる以上、右の事情はただ違法性の認識がなかったとなるに過ぎないものとした原判示もまた正当であって、所論のような違法あるものとすることはできない(所論引用の大審院判例は差押の効力について錯誤し、差押のないものと誤認した場合に関するものであって本件に適切でない)。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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